此たひ奥羽長途の行脚たゝ かりそめにおもひ立て呉天に白髪の恨を重ぬといへとも
耳にふれていまた目に見ぬ境若生て帰らぬはと定めなき頼の末を樂て其日漸々早加
と云宿にたとりて痩骨の肩にかかれる物先くるしむ唯身すからにと拵出立侍るを帋子
一衣は夜ル臥為と云ゆかた雨具墨筆のたくひあるはさりかたき花むけなとしたるは
さすかに打捨かたく日々路頭の煩となるこそわりなけれ室の八嶋に詣ス曽良か曰此神は
木の花さくや姫の神と申て富士一躰也
無戸室に入て焼たまふ ちかひのみ中に火火出見のみこと うまれ給ひしより室の
八嶋と申又煙を読習し侍るもこの謂也将このしろと云魚を禁す縁記の旨世に伝ふ
ことも侍し Ⅲ日日光山の麓に泊るあるしの云けるやう我名を仏五左衛門と云
万正直を旨とする故に人かくは申侍るまま一夜の草の枕も打とけて休み給へと
云いかなる仏の濁世塵土に示現してかゝる 桑門の乞食順礼こときの人をたすけ
給ふにやとあるしのなす事に心をとゝめて見るに誰無智無分別にして
正直偏固のもの也 剛毅木訥の仁にちかきたくひ智愚の清貧尤尊ふへし
卯月朔日御山に詣拝す往昔此御山を二荒山と書しを空海大師開記の時
日光と改たまふ千歳未来をさとり給ふにや今此御光一天にかゝやきて
恩沢八荒にあふれ四民安堵の栖穏也猶憚多くて筆を指置ぬ
あなたふと青葉若葉の日の光
黒髪山は霞かゝりて雪いまた白し
剃捨て黒髪山に衣更 曽良
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