2011年6月14日火曜日

方丈記を原文で書く ②

火もとは樋口富の小路とかや  舞人を宿せる化屋
より出で来けるとなん  吹き迷ふ 風に  とかく移り
ゆくほどに 扇をひろげたるが ごとく末広になりぬ
遠き家は煙にむせび  近きあたりは ひたすらほの
ほを地に吹き付けたり  空には灰を吹き立て たれば
火の光に映じて あまねく紅なる中に風に堪えず吹き
きられたるほのほ  飛ぶがごとくに
して 一二町を越えつつ移りいく  その中の人
うつ々心あらむや  或は煙にむせびてたふれ
ふし 或は炎にまぐれて たちまちに死ぬ或は
又 わずかに身一からうして随たれ共資財を取り
出るに及ばず七珍万宝 さながら灰燼となりにき
その費 いくばくぞ  此のたび公卿の家十六焼け
たり  ましてその外 
数へ知るに及ばず  すべて都のうち  三分が一に
及べりと ぞ  男女死ぬるもの数千人馬牛の類ひ 
邊際を知らず  人のいとなみ  皆愚かなる なか
に  さしもあやふき京中の家をつくる とて 宝を
費し  心を悩ますことはすぐれてあぢきなくぞ
はべる  へき   また 治承四年卯月のころ 中御門
京極のほどより大なる つじ風おこりて

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