2011年7月15日金曜日

方丈記を原文で書く ③

六条わたり迄いかめしく明けることはべりき  三四町をかけて吹きまくる間に其のうちに
籠れる家とも大なるも小さきも一として破れさるはなし    さなからひらにたふれたるもあり
けた柱ばかり 残れるもあり  又門の上を吹きはなちて四五町がほかに置き  また垣をふ
きはらひてとなりと一つになせり  いはむや家のうちのたから数をつくして空にあり  檜皮
ふき板の類ひ冬の
木の葉の風に乱るるがごとし  葵を煙鹿ことくふきたてたれば  すべて目も見えず  おびただしく
なりよどむ  音に物いふ声も聞こえず地獄の業風なりともかくこそはとそ覚えける  家の損亡す
るのみならずこれを取つくらふ間に身をそこなひかたはつける者数を知らず  この風ひつじさる
の方に移り行て多くの人の嘆きをなせり 辻風はつねに吹ものなれど  かかる事やある ただ事
に あらず
さるべきもののさとしか などぞ うたがひはべりし
又 おなじ年の水無月のころ 俄に都遷りはべりき  いと思ひの外なりし事也    大かた此京の
始を聞くは嵯峨天皇の御時 都と定まりにけるより後すでに数百歳を経たりことなりてたやすく
あらたまるべくも あらねば これを世の人たやすくす愁安へるさまことはりにも過ぎたりされど
とかくいふかひなくて御門より

始め奉りて大臣公卿ことごとく移ろひ 給ひぬ  世につかふるほどの人誰か独り故郷に残らむ
官位に思ひをかけ主君の影を頼むほどの人は一日なりとも とく移らむとはげみあへり時を
うしなひ世に余されて期する所なき者は愁ながらとまりをり  軒をあらそひ し人の住い日を経
つつ荒行く  家はこぼたれて淀川に浮ひ地は目前に畠となる  人の心みなあらたまりてただ馬鞍
のみをもくす  牛車を用と


      する人なし西南海の所願を願ひ東北の庄園をば好まず
      その時おのづから事の便り在りて津の国の今の京に到れり  所の有りさまを見るにその地
      程せばくて条理をわるに足らず  北は山にそひて高く 南は海に近くて下れり   波の音つねに
     かまびすしくて塩風ことにはげしく内裏は山の中なれば 彼の木丸殿もかくやと中々也
     字かはりて優なるかたもはべりき  日々にこぼち 川もせき

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